うらそえ市民公開講座講演要旨

「在宅医療の実際とネットワークの必要性」
山里将進(かじまやークリニック院長)

山里将進

みなさんこんにちは。ただいまご紹介いただきました、かじまやークリニック院長の山里でございます。今、仲間清太郎先生から、在宅医療がなぜ必要かということを、かなりいろんな面でお話があったと思いますけれども、私は実際にやっている在宅医療のことを報告して、ネットワークの必要性について考えていきたいと思っております。

先ほど仲間先生からもお話ありましたけれども、在宅で療養を必要としていて通院が困難な方は、訪問で医療を受けていいですよということになっておりまして、特にこの病気でなければいけないとか、例えば介護度がいくら以上じゃなければいけないとか、そういう縛りはありません。ですから、通院が困難で在宅での療養が必要な方は訪問診療が受けることが今は可能になっております。それから地域の縛りがありまして、一応そのクリニックからですと半径16km以内となっております。16kmというと、浦添からいうと那覇市全域と宜野湾市とか南風原市、かなりのところが含まれますけれども、その距離以内だったらやっていいでしょうということになっております。それから回数の制限も一応ありまして、定期的に訪問診療やるのは週3回までとなっておりますけども、悪性腫瘍とか難病に関しては必ずしも回数に縛られなくて、必要ならばもっと訪問診療ができるようになっております。

患者さんを受け入れていくときに色々な条件を私たちは考えていますけれども、まず1つは、患者さんや家族が訪問診療を希望しておられるということです。それから、ある程度病気が安定していて、在宅での管理が可能な状態、というのが一つです。それからとても大事なことは、その家庭の介護力、それから介護保険などのサービスを使った社会的な介護力のこの両方合わせた介護力が一定程度ないと、在宅での療養を続けることはとても難しいということで、これは非常に大事な点だと思います。それから在宅の患者さんは急に容体が悪くなったりすることがよくあります。ですから、急に具合が悪くなった時にいつでも安定的に入院を受け入れてくれる病院があるという条件が必要です。この条件がないと、なかなか責任を持って引き受けることが出来ないわけですね。そういう点で病・診連携というのは非常に大事なものになります。

具体的に訪問診療の流れについてお話します。まず、訪問診療の申し込みがありますと、実際には家族の方と面接したり、訪問したりして評価を行います。身体面、病気とか、介護の必要度がどの程度あるかとか、それから精神、心理的な面、例えば認知症がないかとか、いわゆる老人性の精神疾患がないかとか、そういうような評価をし、さらに社会、経済面のいろんな評価をした上で、しっかり同意を得て、訪問を決定していきます。訪問診療の導入が決定して、昔は訪問診療が決定すると、そのまま訪問診療をやっていた時代もありますけれども、今は必ず、介護保険とのサービスの調整が必要です。サービスの調整が、非常に大事になっています。サービス担当者会議というのを開きまして、ケアマネージャーさん(介護支援専門員)が大体全体をコーディネートするという形で会議を持ちまして、サービスを実際に提供するいろんな職種が集まって、サービスの調整をして、プランを策定して、それから実際の訪問診療が始まっていきます。2週間に1回、月2回程度の訪問診療をやって、また一定の時間が経つと、また再評価をして、またサービス担当者会議をもって診療計画の見直しをやっていくと、こういう流れになっています。

実際の訪問診療を受けている方の介護度をグラフにしておりますけれども、介護保険では支援の1から要介護5までランク分けをしまして、その介護度に応じた介護サービスを提供できるような仕組みになっておりまして、要介護3、4、5、ですね、重介護の方が多いというのが特徴になっております。

それから年齢ですけども、在宅は圧倒的に高齢者、女性ですと70代、80代、90代が非常に多いということですね。それから男性は70代が多くて、80代、90代がそれに次いでおりますけども、要するに在宅医療というのは高齢者医療が中心です。高齢者の方々が圧倒的に多いというそういう特徴でございます。

自立度を見てみます。正常な方から一番寝たきりの方でランクがありまして、このAのレベルというのは杖とか歩行器でどうにか歩いている方、Bランクというのは大体車椅子を使っている方、Cランクというのはほとんど寝ている方です。大体Bランク、Cランクが多いというのが在宅の患者さんの特徴です。

認知症の状態を見てみます。正常からはじまって非常に重度の方もいまして、この2Bのレベルというのは、もう薬を自分で管理できないという方です。それ以上の方がかなり多いということで、訪問薬剤指導が必要です。薬剤師の方が出向いていって詳しく指導しないと、薬がきちんと管理できないという方も非常に多いのが特徴です。

主な疾患を見てみますと、脳卒中の後遺症とか認知症、骨粗しょう症、骨折、運動器疾患、それから神経難病のパーキンソン病とか悪性腫瘍とか色々な疾病があります。こう見てみますと、一人の内科の医者でこれだけ全部本当に全部診れるのでしょうかという疑問が多分出てくると思うんですけれども、一人ではとても手に負えないというのが現実です。多くの専門の先生方のバックアップがないと、責任をもってその疾病の管理をしていくというのが実際には難しいというのが状況です。

また、在宅の患者さんは、いろいろな合併症、高血圧から便秘、不眠、心不全とか色んな合併症を持っております。合併症も色々ありまして、眼科疾患から皮膚科疾患、泌尿器疾患、耳鼻科疾患、それから婦人科の疾患とか色々合併症があるわけですね。ですからこれを一人の医者で見るのは非常に困難で、先ほど仲間先生の方からもチーム医療というのが一つのキーワードだというお話がありましたけども、本当に現場でやっているとチーム医療、とりわけ専門医の先生方のバックアップがないと、責任もって在宅医療やれないなというのは実際に痛感しております。

これは往診かばんの中身でして、診察用具、処置用具、治療薬、いろんな書類があって、往診かばんの中身は昔とそんなに変わってないと思います。変わってきているのは、検査の機器が昔と比べてかなり変わってきています。例えばパルスオキシメーターといいまして、皮膚から簡単に酸素の状態を測定して、呼吸不全がないかどうかというのを簡単に調べることができますし、それから睡眠時無呼吸の検査も在宅でやろうと思ったら出来ます。それから心電図とかポータブルのレントゲン、超音波検査ですね。あと血液の検査、それからいろんな感染症の検査とか心筋梗塞の検査、こういうのが、今簡単に在宅でもできるような時代になっております。

そういうことで、昔と違うのは、昔は看護婦さんと医者が往診かばんを持って、訪問診療をして、点滴やったり注射したり、そういうことをやっていたと思うんですけれども、今ももちろんそういうこともやりますが、それ以外に、病院の外来と同じように色々な検査が在宅で可能になってきております。その辺が違います。ですから往診車と言っても、結構荷物一杯積まないと出来ないということで、往診車も昔と大分違ってきております。

それから在宅の患者さんでも、いろんな処置、療法が可能です。ワクチンの接種、点滴、それから在宅酸素療法、褥瘡の処置、関節腔内への注射をしたり、それから人工呼吸の管理をしたり、気管切開のカニューレを交換したり、胃瘻チューブ交換とか、昔ですと外来と入院でやっていたことが、今は在宅でかなりできるようになりました。これが昔の訪問診療や往診とは違うところですね。

これは電子カルテですね。この隣にあるのは持ち運び用の印刷機です。この2つを持っていきますと、処方箋を在宅で発行したり、紹介状を作るのも簡単にできますし、それから急ぎの場合にはこのパソコンの画面からインターネットを使って、救急病院に診療情報を提供して、いわゆる紹介状をすぐ送ることも出来ます。実際に私は、友人とドライブして辺戸岬まで行ったことがありますけれども、塩屋の所で電話が掛かってきまして、患者さん具合悪いから紹介状を書いてほしいということをいわれて、塩屋から浦添総合病院宛てに、この画面から紹介状を書いてFAXで飛ばして、それがすぐ届いたということもあります。ですから情報処理の機器も整備されまして、在宅医療やるには非常にいい状態になっております。

在宅の患者さんには結構入院があります。脱水症になったり、脳梗塞になったり、それから骨折をしたり、腸閉塞になったりとか、それから人工呼吸器を使っている人の場合、台風の時に停電すると困りますのでね、停電に備えて入院ということもあります。いろんなことで入院が必要になります。ですからどうしても病診連携がしっかりないと、安心して診ることができません。それから往診も、時間内の往診もあれば、時間外の往診もあります。お休みの日の往診、夜間の往診、深夜往診もあります。そういう点では24時間365日を一人の医者で診ていくというのは非常に大変なことで、在宅医療を長く続けてくためにはネットワークが無いと、もうできないなというのが私の実感でございます。

皆さん方、訪問診療やる時に、じゃあ、お金幾らくらいかかるのかなと、医療費のことは非常に関心のあるところだと思いますけども、今は1割負担の方で、特に往診とかがなくて安定している場合には、月々大体5,800円位の負担です。それから3割負担の方が17,000円ということで、これについては高いか安いかというのは一概に言えないと思いますけども、今はこういうふうな状態になっております。

在宅医療ネットワークは、まず患者様や、ご家族が在宅医療を円滑に利用できるようにしたいという事が一つですね。それから医者の過度の負担を軽減して、持続的に在宅医療を可能にするということで、浦添市の在宅医療ネットワークは長崎のネットワークを参考にしまして、主治医制・副主治医制ということで2人の医師が協力して、24時間365日の対応を行う、ということになっております。

それからかかりつけ医と専門医の連携の強化ということで、協力医制、これもネットワークの必要なところでございます。それから病院と診療所の連携、緊急時、夜間の入院を円滑に行って、退院後の在宅への移行を円滑にするということで、この病診連携ですね。これも、ネットワークの中でそういう協力体制を構築しております。

それから今後増えてくると考えられる、癌の疾患のターミナルケアを在宅に入れるときに、緩和医療、ターミナルケアに必要な施設間の連携、職種間の連携を円滑にするというときに、このネットワークが必要だというふうに思います。それから訪問看護ステーションとの連携の強化も、24時間対応、緊急対応の上で必要ですし、介護サービス事業所との施設間連携、多職種との連携の強化も、ネットワークは必要としております。

今年の1月15日に、浦添市で在宅医療ネットワークを立ち上げしましたけれども、この仕組みで、これは先ほど仲間先生からありましたけれども、具体的には連携病院が浦添総合病院、同仁病院、それから嶺井第一病院、牧港中央病院、それから平安病院ですね。浦添にある病院のほとんどが、このネットワークを支援するということになっております。それから訪問看護ステーションも3ヶ所ですね。つるかめ訪問看護ステーションと、訪問看護ステーションぐしくまと、ナースログですね、この3つのステーションが連携しておりますし、それから薬剤師の方もこの間ネットワークを立ち上げた時に早速お話がありまして、訪問薬剤指導や麻薬処方が可能な調剤薬局からお話があって、自分たちもこのネットワークに入れてほしいというお話がありました。それからとっても大事なのが協力医です。既に皮膚科、眼科、麻酔科、精神科、それから泌尿器科、耳鼻科の先生方がこのネットワークに参加するということを表明しております。

そういうことで、これは沖縄で初めてなんですけれども、在宅の患者さんを、主治医、副主治医が連携する、それから各職種が連携する。病院と診療所が連携する、それから専門の先生方といろいろ相談して、患者さんのためにこの在宅医療の質を高めていくということを、これからはやっていきたいなということで、ネットワークを立ち上げております。
在宅医療については、実はまだあまり知られてなくて、どういうような診療ができるのか、どこに申し込んだらいいのか、まだまだ普及してないと思います。そういう点でこの在宅医療ネットワークの立ち上げを機会に、是非とも在宅医療に対する皆さん方の理解を深めていただいて、安心して自宅でも療養ができるように私達も頑張っていきたいと思っていますので、よろしくおねがいいたします。

私の報告はこれで終わります。ご静聴ありがとうございました。